とりプロなう99号

2018年7月16日、第2期選挙市民審議会の第5回目の審議会が開催されました。

この日の審議内容は、政党助成金についてでした。

ゲストの加藤一彦東京経済大学教授(憲法学)に現行の政党助成法や政治資金規正法の課題を整理してご講演いただきました。

          加藤一彦さん
          加藤一彦さん

 

加藤一彦さん

 

【政治資金規正法】

 

政治資金の法構造は極めて複雑。政治資金規正法+公職選挙法+諸法の重層構造。

企業・団体は、年間1億円まで、政党/政党支部、政治資金団体に寄付できる。個人は、年間合計3,000万円まで寄付できる(政党/政党支部、政治資金団体に2,000万円+その他の政治団体に1,000万円)。

個人による同一の相手先(その他の政治団体・公職の候補者)への寄付は150万円まで。

その他の政治団体(派閥等)間の寄付(資金移転)は、年間5,000万円まで可能。

 

以上の結果、企業・団体は、政党支部を通じて実質的に政治家個人に資金提供が可能。大口の企業・団体献金は政党支部になされる場合が多い。政党支部は寄付の受領後当該資金を自由に移転。政党支部は「マネーロンダリング」機関。政党支部に規制を課せるか。

 

政治家には4つの資金源がある。①政党+政党支部:規制なし。②政党以外の政治団体(資金管理団体+その他の政治団体):規制なし。③個人献金:同一人物から150万円まで。③政治資金パーティー収入:20万円超の購入者公表、個人は150万円まで。パーティーを主催するのは政治家の政治団体。公表しない範囲で何がなされているか把握不可。抜け道。

 

 

【政党助成法】

 

ドイツの場合。西ドイツ基本法(1949年)21条に政党条項あり。

一般的国家補助開始(1951年)。

一般的国家補助に対し違憲判決(1966年)。

「選挙運動費用補助」に使途を限定した政党法制定(1967年)。

一般的国家補助容認へ、憲法裁判所が判例変更(1992年)。

 判例要旨

  ①相対的上限:政党の自己調達金よりも国家補助は上回れない。

  ②絶対的上限:これまでの公的資金の平均値を上回れない。

  ③政党の平等性の確保:政党は自らが社会に根付いた存在であることを自覚すること。

   個人から出発する政党の育成という考え方。

判例の考え方に基づき一般的国家補助を導入する政党法改正(1994年)。

改正政党法の具体。

絶対的上限額の法定:約190億円。

国家補助の配分:①有権者獲得分(1票1ユーロ。ただし400万票を超えた後は1票0.83ユーロ)。

        ②献金獲得分(個人の寄付3,300ユーロまで、1ユーロ当たり0.45ユーロの補助金上乗せ)。

議席を得るためには5%得票という阻止条項があるが、政党助成は0.5%以上の得票と比較的ゆるい。

 

 

日本の場合、憲法上政党の規定はない。「政党」の文言すらない。しかし政党に公的性格/公的地位があるというのが通説。

「公」に何を読み込むか。市民社会に開かれる存在と解したい。政党は国民の政治的意思形成に仕える存在であるべき。

政党助成導入の契機は、企業・団体からブラックマネーを遮断し、公的なきれいなお金を政党に渡すことにあった。この見方が正しかったか検証すべき。

自分は政党助成導入に反対だった。理由は党内民主主義を機能させなくするから。助成金の資金配分権・小選挙区の公認権を執行部が握ることは、党内の政治力学を変質させる。この危惧が現実化した。

 

政党助成法の改善点として以下のような諸点が挙げられる。

 ①単価250円×総人口=総額320億円の計算式で適切か。余りにも高額。「人口」ではなく「有権者」でも良くないか。

  250円を下げることも可。たとえば、単価200円×総有権者数=202億円となるが。

 ②選挙一本主義的配分基準の見直しもできる。成功報酬配分を改めるべき。選挙に負けた方もまっとうな政治活動をしている。

  議席数+得票数だけではなく、ドイツのような個人献金を促す制度や、所得税の一部を政党本体に寄付できるような制度も。

 ③相対的上限を、たとえば政党総収入の二分の一などに設定することもできるのでは。政党の収入の7-8割が国庫補助というのは異常。

 ④政治資金規正法と連動させ、不適切な財務処理をした場合に、政党助成金の減額等の罰則制を設けることも良い。

 

政党助成の使途限定も全くないよりは良いと思うが、政党によって機能しない場合もありうる。使途制限禁止の理由は政党の自由の保障にあった。だから使途限定の理由は有権者側の論理や利益でなくてはいけない。

現状で政党交付金は余っている。まず政党基金積立も禁止し使いきれないものを返金させるべき。

 

企業・団体献金の全面禁止は、バーター取引がなければ実現しないのでは。何がバーターとなるか。

個人の選択権を確保できるような政党助成法の大改正が必要。個人の政治献金が増え、政治に関わる人の裾野を広げるためにどうすべきか。

一年間に必要な政治資金の総額はいくらかの算出も必要。

 

わたしたちは立法者をどうしたいのか。巨大な行政庁に対峙できる立法府を作るためにはお金がかかる。公設秘書3名だけでは不足。地方議会では政務活動費を人件費にしている例も。立法者の仕事ができているのか。

ドイツにおいても政党不信、さらには政治不信があった。現在の多党化もその現れ。それでもナチスへの反省から、直接民主制よりも間接民主制(政党政治)を選び取っている。

市民社会の成熟性を作っていきたい。

         片木淳共同代表
         片木淳共同代表

 

片木淳共同代表

 

現状の政治資金制度・政党助成制度の改革課題は何か。政党のあり方・政治資金のあり方を総体的に捉えて。

政党を前提に議論を組み立てているのか。それとも個人の議員・公職の候補者を前提にしているのか。

日本では政党に対する国民の受け止め方がかなり否定的のように思う。政党助成法の冒頭で謳われているような「政党の機能の重要性」が普及していないのでは。

政党の機能を再評価しつつ、どこをどのように変えるべきか。

         三木由希子共同代表
         三木由希子共同代表

 

三木由希子共同代表

 

NPOに対する個人献金はかなり増えた。しかし政党に対する個人献金はなかなか増えない。寄付に対する税控除だけでも難しいだろう。なぜなら、災害支援等のNPOへの個人寄付は個人の自己実現に役立っているから。政党の場合、利益共同体が献金をしているから。政治のカネの流れを変えるには、政党へのインセンティブを与えなくてはならない。

得票数に対して政党交付金が配分される方が良い。

政党助成法4条「使途制限の禁止」を改正する際の留意事項が何かあるか。

         只野雅人共同代表
         只野雅人共同代表

 

只野雅人共同代表

 

これまでに選挙運動期間の撤廃と関連して、選挙運動費用について審議してきた。そして8月には政治資金収支報告書、9月には政党助成も含めての「政治のカネ」の全体像を審議する予定だったので、とてもタイムリーなお話を聞くことができたと思う。

           坪郷實委員
           坪郷實委員

 

坪郷實委員

 

1994年の改正で、政党間の機会均等を大きく損なわないとした理由は何か。

政党の位置づけが憲法上もない日本の場合は、「政治的意思形成の中で政党が重要である」というドイツの前提を、改めて議論しなくてはいけないのか。

助成額が日本はドイツより多いと言えるか。ドイツは政党系の財団を経営するための助成金もある。目的に従って考えるべきでは。政策作りのためという目的に使途を方向づけることはどうか。韓国では助成金の3割ほどが政党系のシンクタンクに使途限定。

政治資金について三分割で考えたい。①個人の政党への寄付が三分の一、②政党への党費の納入が三分の一、③国庫からの政党助成が三分の一。

         濱野道雄委員
         濱野道雄委員

 

濱野道雄委員(スカイプ参加)

 

今日は政党助成について貴重な勉強をさせていただいた。イスラエルに居るが、これからもこのような形でご一緒させてもらいたい。

          城倉啓(事務局長)
          城倉啓(事務局長)

 

城倉啓(事務局長)

 

今後の審議会の工程表について若干修正する。10月予定だった罰則規定については、2019年2月以降に審議することとする。

8月:政治資金収支報告の論点整理(三木由希子共同代表)

9月:公費負担・政治資金・政党助成改正原案(小林幸治委員)

10月:選挙管理実務論点整理(太田光征)

11月:公費負担・政治資金・政党助成改正案(小林幸治委員・片木淳共同代表)



【今後の選挙市民審議会の予定】

 

8月28日(火)15:00-17:00 衆議院第2議員会館 B1 第2会議室

 政治資金収支報告の論点整理について。三木由希子共同代表担当。

 

9月27日(木)15:00-17:00 国会議員会館内(会議室未定)

 公費負担・政治資金・政党助成改正原案。小林幸治委員担当