「統一地方選挙に向けたアピール」を発表しました

統一地方選挙に向けたアピール

―― 地方自治体選挙制度の改革提案

2019年3月18日 選挙市民審議会

 

 

私たち選挙市民審議会は、日本の選挙の問題点・課題について検討をかさね、その打開策を練ってきました。その成果に立ち、来たる統一地方選挙にのぞんで、地方自治体の選挙制度(選挙制度本体)について、私たちの改革案を提示しつつ、改革の必要性をアピールさせていただきます。地方の選挙制度の改革も国政のそれにおとらぬ重要性をもっているからです。

地方選挙から日本の選挙の改革を

選挙制度の改革案をのべる前に、その前提または土台にかかわる次の一連の問題にも留意するべきと思います。国政と地方政治の双方にわたります。

① 戸別訪問などが選挙で禁止され、それが通常の政治活動をも制約  

② 世界で突出して高額な供託金制度  

25歳か30歳になるまでの立候補の制限

④ 立候補に際し多くの職場で離職を迫られる現実  

⑤ 在日外国人の政治参加の制約  

⑥ 女性の候補者・議員の極端な少なさ  

⑦ 選挙運動期間制とその短さによる弊害  

⑧ ポスターの掲示やチラシなどの配布の制約  

⑨ 投開票の不正など選挙事務の抱える問題  

⑩ 主権者教育の不十分さ

これらのうち②は国政の方が深刻ですが、他は地方政治への弊害がより深刻といえるでしょう。そこに選挙制度の不備とが合わさって、地方選挙における投票率の顕著な低下、候補者の定員割れと無投票当選の多発などが進行しています。

私たちはこれらの問題・課題について、民主主義の身近な学校とされる地方政治・地方自治において実践的かつ着実に改革していく方向を国民・市民すべてが共有するよう訴えるとともに、以下に地方選挙制度について三つの改革案を提起します。

地方選挙制度の改革1:首長選挙に決選投票制を

地方自治体の首長選挙すなわち都道府県知事選挙・市町村長選挙に、決選投票制の導入を提案します。現在の制度では第1位の得票数の候補者が当選となります。これは単純でわかりやすい方法ですが、民主的な選任方法として正統性に疑問符のつくケースがあります。現制度では有効投票数の4分の1(25%)が当選に最低限必要な法定得票数です。したがって候補者の多い首長選挙では投票者の25%での得票での当選もありえ、首長として正統性が損なわれます。首長選挙は投票率が低い傾向があるので、少数者にしか支持されていない首長が生まれ、正統性がさらに損なわれます。

現制度がかかえているこの難点を打開する方法として、有効投票数の50%以上を得票した候補者がいない場合、上位二候補による決選投票制とすることを提案します。これにより投票者の過半数の支持を受けた首長を選任でき、民主的な正統性が確かなものとなります。

決選投票がありうる選挙では候補者擁立の動きも活発になり、まちづくりの進路・政策への関心を高め、投票率も高まるでしょう。そして決選投票がおこなわれることになった選挙では、さらに進路・政策の関心と議論を高めることになり、有意義な選挙になるでしょう。

地方選挙制度の改革2:都道府県議会選挙・政令市議会選挙を比例代表制に

都道府県議会議員選挙、およびそれに近い規模である政令指定都市の市議会議員選挙を、比例代表制に改革することを提案します。

これらの選挙では小選挙区・中選挙区・大選挙区が混在し、それぞれに弊害が起きています。そこに共通しているのは、個人中心の選挙となり政策論議が低調な状態におちいっていることです。それでいて政党・政策グループ化が進んでおり、そのことは多様性のある民意反映のルートとしての役割を政党などがはたすべき状況にあることを意味します。実際にそのような民意の反映体制にし、政策論争を活性化する必要があります。そのためには政党や政策グループを選択する選挙である比例代表選挙にするのがもっとも有効と考えられます。

比例代表制にも色々な方式がありますが、得票に比例した議席配分を忠実におこなうことを基本とし、その上で複数の選択肢の中から広い納得のえられる方式を採用すべきでしょう。

地方選挙制度の改革3:市町村議会選挙に複数候補者への投票制を

市町村(政令市のぞく、東京都特別区ふくむ)の議会選挙の投票を、1候補者のみへの1票制(単記投票制)から複数候補者への投票制(制限連記投票制)に変更することを提案します。

現在は当該自治体の全域を1区とする大選挙区制(大きな市はいわば“超大選挙区制”)がとられていて、投票は1票制です。形としては選択肢がひろいわけですが、とらえどころのない選挙になっているのが実態であり、いきおい投票者の多くは近場の地域世話役の性格をもった議員をつくる傾向になっています。したがってまちづくりの進路・政策についての議論の起きにくい選挙となり、かつ進路・政策を共有する候補者がグループを結成して選挙にのぞむというあり方になりにくい実態です。

そこで進路・政策による候補者のグループ化(政党をふくむ)をうながす方法として、複数候補者への投票制が考えられます。自治体の規模の大きさに応じて、2名連記、3名、4名、そして最大5名連記あたりまでが妥当でしょう。またこの方式は女性候補者への投票行動をうながし、女性候補者・女性議員の増加をもたらすと期待できます。

 

 

 

*詳しくは当審議会の『選挙・政治制度改革に関する答申』をご覧いただけると幸いです。

 

    

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「参議院議員選挙制度改正をめぐる声明」を発表しました

参議院議員選挙制度改正をめぐる声明

 2018年7月、参議院議員の選挙制度をめぐり、総定数の6増(埼玉選挙区で2議席、比例区で4議席)、比例代表選挙における特定枠の導入を内容とする、改正公職選挙法が可決された。私たちは、この改正には以下のような重大な問題があると考える。

 

 第1に、都道府県選挙区における投票価値の不均衡の抜本的な是正が見送られ、小幅な手直しにとどめられたことである。最高裁判所の度重なる指摘を受けて、2015年8月、徳島・高知、鳥取・島根をそれぞれ合区する手直しが行われた。この改正は最小限度の手直しにすぎず、改正公職選挙法の附則では、「平成三十一年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて、参議院の在り方を踏まえて、選挙区間における議員一人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得るものとする。」と定められた。にもかかわらずその後、この約束は果たされず、今回の改正もごく小幅な手直しにとどまっている。参議院のあり方をふまえた、投票価値の不均衡の抜本的な見直しを可能とする選挙制度の実現が必要である。

 

 第2に、比例代表選挙に導入された、あらかじめ定めた候補者を優先的に当選させる仕組み(特定枠)についても、重大な問題がある。この改正は合区対象となった選挙区の議員の当選を確保することを狙った措置であると報じられており、党利党略で導入された制度であることが強く疑われる。また、非拘束名簿式の比例代表制に拘束名簿式の要素を組み込むもので趣旨がわかりにくい。政党の意向次第で、非拘束名簿を維持することも、拘束名簿とほぼ同様のものとすることも可能であり、政党のときどきの都合によって、選挙制度を改変できるということになりかねない。こうした仕組みによって、国民の意向とかけ離れた議員が当選するようなことにならぬよう、厳しく監視してゆく必要がある。

 

 第3に、議論の進め方にも大きな問題がある。選挙制度の改正は各党の利害に直結する問題であるだけに、最終的に全会派の一致を得ることが難しいとしても、特定の政党の利益のみを図るような仕組みが導入されることのないよう、できるだけ幅広い合意を得ることが重要である。これまでも、参議院の選挙制度改正をめぐっては、各党が参加する協議の場が設けられ議論が行われてきた。しかし今回の改正は、そうした議論をふまえることなく、いわば見切り発車で行われた。特定の政党の都合を優先した改正がなされるとすれば、今後に大きな禍根を残すことになる。

 

 私たち選挙市民審議会では、本当の意味で民意が反映される選挙制度の実現をめざし議論を重ね、201712月には、あるべき選挙制度についての答申を発表している。参議院議員は憲法上、衆議院議員より任期が長く、半数ずつ改選されることから、それぞれの議員が専門性を高め、長期的視点より政策課題に取り組むことが期待される。そこで私たちは、参議院議員選挙制度については、参議院が果たすべき役割をふまえ、政党だけでなく「人」の選択にも重点をおいた仕組みとして、大選挙区単記制または連記制を提案している。こうした仕組みの導入により、投票価値の不均衡も抜本的に是正される。また、現在の国会議員数は決して十分とはいえないことから、国会が適切に民意を反映し活動できるよう、参議院議員数を 300程度とすることも提案している。

 

 なお、定数増をめぐっては、メディアなどで批判がなされている。しかし、議員定数は本来、民意を適切に反映するうえでどの程度の議員数が必要かという観点から考えられるべきものであり、定数増も一概に否定されるべきではない。ここしばらく、衆参両院で定数の削減が進められてきたが、日本の国会議員数は人口比でみると、ヨーロッパの主要民主主義国と比べても決して多いとはいえない。参議院のあり方をふまえた選挙制度改正にあたっては、むしろ議員増の可能性も含めて、より適切に民意を反映する仕組みが探求されるべきである。

 

 このような提案もふまえつつ、あらためて、より適切な民意が反映されるような参議院議員選挙制度の実現に向けた本格的な議論を強く求めたい。

 

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▼衆議院議員選挙制度の改革

衆議院議員選挙制度の改革(要約)

 

1.現行制度の概要

小選挙区比例代表並立制で、議員定数465(小選挙区289、比例区178)とし、1人2票で小選挙区と比例区にそれぞれ投票する。比例代表選挙は11ブロックに分けられ、一定の要件を満たす政党は重複立候補を認められ、名簿上同順位にした場合は、小選挙区の惜敗率で順位が決定する。

 

2.現行制度の問題点

① 小選挙区の比率が高く、政党の得票数と獲得議席数に大きなかい離を生じている。

② 多くの死票が発生している。

③ 小選挙区中心のため、新たな政党や候補者の参入が困難となっている。

④ 小選挙区をめぐって「一票の較差」問題が生じている。

⑤ 政権交代が可能な制度という当初の考えと、強い参議院の存在との適合性について考慮が十分でなかった。

 

3.改革の方向性

選挙制度の改革は、簡明なもので、かつ明確な理念に基づいたものであることが必要である。また、多様な民意が反映されるものであり、そのために多様な選択肢が提供されるものが求められる。

 

さらに、上記の問題点を解消するような制度設計が必要であり、具体的には

①死票が少ないもの、②制約が少なく新興の勢力や無所属であっても参入できるもの、③政党の新陳代謝や自己革新が促進されるもの、④有権者と候補者の近接性に配慮したもの、⑤政策本位、政策競争の選挙を促進するもの、⑥投票価値の平等を実現するものであることが必要である。

 

4.両院共通の問題点と改革方向

① 議員定数について

議員定数は漸次削減の方向にあるが、全国民を代表する国会にふさわしい、多様な民意や、少数意見及び各地域の声を反映させるという観点から、適切な議員定数が検討されるべきである。議員定数増加による国民の財政負担の問題は、歳費や議員の国会活動費、政党助成金など総合的に検討を行うべきである。

 

② 女性議員比率について

列国議会同盟の統計(2017年9月、下院)によると、193ヶ国中165位であり、国際的にも女性議員の割合が極めて低い状況にある。法的強制力を持ったクオータ制は憲法上の議論があることから、政党助成金の増減により女性候補者の擁立を促したり、比例代表選挙において政党が自律的に女性議員を増やす仕組みをとりあえず提案する。

 

5.改革案の提言

以上から、次のことを考慮しつつ、比例代表制を基本とする制度を提言する。

 

(選挙区について)

得票数と議席数が比例する制度の趣旨を損なわず、有権者が候補者を選択できる範囲を考慮して次の通りとする。

① 議員定数は最低でも15議席とする。

② 少なくとも20程度の選挙区を設ける。

③ 北海道・沖縄はそれぞれ独立した選挙区とする。

 

(議席配分方式について)

① 現行のドント式よりもヘア式(ヘア基数最大剰余法)の方が、得票に比例した議席配分ができることから、ヘア方式を採用する。

② 平均で25~30議席程度の選挙区を想定するため、議席獲得に3~5%程度の得票が必要になることから、阻止条項は検討する意味が乏しい。

 

(名簿方式について)

① 得票数と議席数の比例性を基本としつつ、有権者が候補者を選択できる非拘束名簿式を採用する。

② 新興勢力や無所属でも参入しやすい仕組みとし、個人による立候補や政党間の統一名簿も許容する。

③ 女性議員の比率を高めるため、政党の裁量で、投票後に男女交互に得票順位よって当選者を決定する方式も認める。